リセット Side Story



大切な君に。...08



ルーナの誕生日記念で書いたものです。


■カインの場合




 カインはすうっと大きく息を吸い込むと、自分を奮い立たせるようにして目の前のドアを開けた。
途端に「いらっしゃいませ」と明るい声が飛び込んでくる。
 落ち着かない様子で店内へと足を進めたカインは、首だけを左右に振って店内を見渡した。
 淡いピンクや水色に、白のレースやフリル。いかにも女性が喜びそうな装飾のこの雑貨店は、ルーナ御用達だ。
 何度も彼女にお供してきた場所だったが、カインが店内に入ったのは初めてだった。しかも今日はルーナと一緒ではなく、彼一人での来店だ。
「何かご入用でしょうか?」
 固まったように動かないカインに、店主である女性はにこやかな笑顔を貼り付けてそう尋ねた。
「あ、いや……その、プレゼントを」
 薄っすらと頬を染めて、決まり悪そうにそう口にした彼を見て、店主は思わず顔を背けた。
(頬を染める美少年! たまんないわっ)
 煩悩に凝り固まった感想を心の中で漏らす店主を余所に、少しだけ平静を取り戻したカインはひとつ咳払いをして口を開いた。
「誕生日のプレゼントを探しているんだが……何か良いものはないだろうか?」
「そうですね……どんな方ですか?」
 そう店主が尋ねると、カインは思い出すように目を閉じた。
「年より大人びているが、無邪気で愛らしい。あとは優しい……人だ」
 知らず口元を綻ばせる彼に、店主は満面の笑みでうなずいた。
「大事な方なのですね。では、こちらなどいかがでしょうか?」
 そういって店主が示したのは、蝶を象った繊細な意匠の髪飾だった。アンティークなのだろう、落ち着いた色合いの銀のフレームに、蝶の柄を表すように宝石が散りばめられている。
「いかがでしょうか? 一点もののとてもよい品ですわ」
 髪飾を手に取り、じっと見つめるカインは、店主の言葉に同意するようにうなずいた。
「これをもらおう」
「ありがとうございます。では包装させていただきますわ」
「頼む」
 大事そうに店主へと髪飾を差し出すと、途端に恥ずかしくなったのかカインは手を引っ込めて視線を逸らした。
 暫くして箱に収められ綺麗に包装された品を受け取ると、カインは満足そうに店を出た。
「喜んでくれるといいが……」
 小さくつぶやいたカインの表情は、優しく微笑んでいた。







兄姉たちの場合

リュシオンの場合

フレイルの場合

- end -

2011/09/15改訂