リセット Side Story



大切な君に。...08



ルーナの誕生日記念で書いたものです。


■フレイルの場合




「痛っ……」
 手を突いた場所にあった棘によって血の滲んだ手のひらを見つめ、フレイルは小さく悪態をついた。
 そんな彼の様子を心配そうに見守る水の精霊の姿が目に入り、フレイルは決まり悪げにふいっと視線を逸らす。
「別に平気だ……!」
 苦笑交じりの微笑みを浮かべる水精に、ほんのりと赤くなりながら彼はぶっきらぼうに吐き捨てた。それにもう一度苦笑すると、彼女は穏やかに口を開いた。
『フレイル、さぁあそこです』
 精霊が指し示す方向に目をやったフレイルは、フッとその表情を緩める。
 長い距離を歩いてきたためか、重くなっていた足取りが、今は明らかに軽いのに気づき、水精はクスクスと漏れそうになる笑い声をそっとその手で覆って抑えた。
 フレイルが向かう先には、小さな虹色の花――虹の雫と呼ばれる珍しい花で、虹のはじまりに咲くといわれる逸話が示すように、見つけるのが非常に困難な花なのだ。しかしそれゆえに幸運のアイテムとして知られている。
『見つかってよかったですね』
 フレイルが慎重に花を摘み取ると、傍らで覗きこんでいた水精はにっこりと微笑んで告げた。
「ああ……」
 満足そうに微笑んでうなずき、枯れぬように魔法をかけるフレイルは、作業を終えた途端我に返ったのか、ハッとして精霊を睨んだ。
「別に、そんなに必死だったわけじゃない」
『ふふ……そうですね』
「本当だからな!」
『ええ。きっと姫様は喜ばれますわ』
 フレイルの言葉を穏やかに肯定しながらうなずく彼女に、フレイルは苦々しい視線を投げかける。
「そんなんじゃない……ただ、誕生日だし。少しは世話になってるから……だからだ!」
 もう一度大きく宣言すると、相手の反応を見ることもなくフレイルはくるりと踵を返す。
 ずんずんと先へ急ぐ主人を水の精霊は慌てて追いかけた。そして彼の手に大事そうにおさまる花を見つめて優しく微笑むのだった――







兄姉たちの場合

リュシオンの場合

カインの場合

- end -

2011/09/15改訂