リセット Side Story



大切な君に。...08



ルーナの誕生日記念で書いたものです。


■兄姉たちの場合




「ユアン、丁寧にね!」
「わかってるよ、姉様……それより黙っててよ。手元が狂うから」
 星型にくりぬかれたクッキーの上に、ユアンは慎重な手つきで文字を書いていく。
 ユアンの横には身を乗り出してその様子を窺うアマリーと、顎先に手を置いて様子を見守るジーンの姿があった。
 よく見ればユアンが文字を書こうとしているクッキーの横には、星の角が欠けたクッキーや、象形文字のような何かが書かれたクッキーなど、明らかに失敗作と思われるものが散乱していた。
「そう……そうよ、慎重にっ!」
「ユアン、失敗するなよ」
 ユアンの手元を真剣な表情で見つめる兄と姉に、彼は内心でため息をついた。
(いやいや、失敗しまくったのは貴方たちでしょう……)
 周りに散乱するメッセージを書き込んだクッキーの残骸は、すべてジーンとアマリーが張り切った結果である。ちなみにユアンの「やりたい」という訴えは、かなりの数の失敗作が出来るまで黙殺されていたのだ。
「……ふぅ……書けた」
「なかなかね、ユアン」
「そうだな」
(ちょっ、頑張った僕に対してそれ?)
「まぁいいけどね。ルーナ喜んでくれるといいな」
「きっと喜んでくれるわよ」
「ああ。びっくりするな、きっと」
 三人は愛してやまない妹の喜ぶ顔を思い浮かべて微笑む。
 ユアンは完成したデコレーションクッキーを手に取ると、そっとその横に置かれたケーキの真ん中に添える。
「ケーキ作りなんて初めてやったけど、なかなか楽しいわねぇ」
「そうだな、なかなか興味深かった」
 完成したケーキを眺めてつぶやくアマリーとジーンに、ユアンは天を仰いだ。
(二人は邪魔しかしてなかった気がするんだけど……)
 にこにこと上機嫌の二人とは対照的に、厨房の片隅には心身共に疲れきったとばかりの使用人たちが座り込んでいた。
「ま、とにかく。なんとか完成だね!」
 ユアンはそういってジーンとアマリーに笑いかけると、二人はコクンと大きくうなずいた。
 ケーキに添えられたクッキーに書かれたのは『誕生日おめでとう、ルーナ』の文字。これを見たらきっと喜んでくれるだろう。
 いつもの可愛らしい笑顔と共に――。






リュシオンの場合

カインの場合

フレイルの場合

- end -

2011/09/15改訂