リセット 〜 Trial Version 〜



第2章 新たなはじまり 01


第二章 新たなはじまり

 満月が窓ガラスごしに室内を照らす。
 広い室内に設置された、大人が何人も寝られるような大きさの天蓋付きベッドには、三人の子供たちが寝転んでいた。
 年齢と性別の違いはあるものの、三人とも濃い金髪に碧眼の、揃って端整な顔立ちをしているため、血の繋がりが容易に想像できた。
 最年長は右端に寝転ぶ十歳前後の少年。兄弟中一人だけ癖のない真っ直ぐな髪を持つ彼は、幼いながらも兄としての自覚が垣間見える利発そうな少年だ。
 真ん中には末っ子と思われる五歳ほどの少年。緩やかに波打つ髪と、整った可愛らしい顔立ちは兄よりも隣にいる少女の方によく似ていた。
 最後は紅一点の少女。最年長の少年より一、二歳年下と思われる彼女は、勝気そうな強い光を放つ瞳と、生き生きとした表情が魅力の美しい少女だった。
「ジーン兄様、お母様は大丈夫かしら?」
「心配ないよ、アマリー。きっともうすぐ僕らに可愛い弟が生まれてくるさ」
 妹の心配そうな声に、ジーンは安心させるように笑った。その声に半分まどろんでいた弟のユアンが、あくびまじりで口を挟む。
「ねぇ赤ちゃんは男の子なの?」
「あら、きっと女の子よ」
「いや男だと思うな」
「女よ!」
 気の強いアマリーは、ニヤニヤと笑うジーンに食ってかかる。
 そんな二人を見ながら、のんびり屋のユアンは楽しそうにつぶやいた。
「僕はどっちでもいいなぁ。それでいっぱい可愛がるんだ」
 その言葉にジーンとアマリーは喧嘩をやめると、同意するように大きくうなずいた。
「どっちにしても僕たちが守ってあげよう」
「そうね」
「うんっ」
 兄弟たちがうなずき合った時、にわかに廊下が騒がしくなった。
「ひょっとして?」
「かもっ!」
 パタパタと行き交う足音に、兄弟はお互いの顔を見合わせるとベッドを飛び出した。
 三人が廊下に出ると、メイドたちが慌しく廊下を行き来している。
 その様子に声をかけることもできず佇んでいた三人だったが、こちらに歩いてきたふくよかで優しそうな女性――子守のマーサが彼らに気づいた。
「あらあら、皆様、起きてらっしゃったのですね」
「マーサ!」
 パタパタと近づいてくる子供たちに微笑みかけると、マーサは視線を合わせるためにその場に膝をついた。
「ちょうど呼びに参ったのですよ。皆様、ご一緒にいらしたのですね」
「うん。ユアンが一緒にいてほしいって頼むから」
「だって、母様が……」
 からかいを含んだアマリーの言葉に、ユアンは頬を膨らませて口ごもった。
 マーサはそんなユアンの頬へ優しく手を当てると、満面の笑みを浮かべて告げた。
「奥様は大丈夫ですよ。先ほど妹君がお生まれになったのです」
 その知らせに、三人は顔を見合わせて歓声をあげた。
 マーサは三人のその様子を微笑ましく見つめた後、にこやかに聞いた。
「さぁ、お母上様と妹君にお会いになられますでしょう?」
「うんっ」
「では、参りましょう」
 三人は揃って元気よくうなずくと、マーサと共に母のいる寝室へと歩き出した。