リセット 〜 Trial Version 〜



第1章 不幸少女の最大の不幸 08


「落ち込まないで下さいよー。……それで続きなんですが、人間は不運と幸運の二つを決められた量を持って生まれ、両方を寿命までに使い切るものなんです。
 もちろん魂の位によって器の大きさは違いますから、運の量というのも違ってきますけど。で、人生の前半にほとんどの不運を使いきり、幸運をほとんど使ってない千幸さんは、これからの人生において不幸体質が一変して幸運体質になる予定だったんですよね。だって使わないと、寿命までに幸運を使い終わりませんから。
しかも千幸さんの魂って実はかなり高位なんで、運の量も相当なんです。だからこそあれほどの不幸に見舞われてしまったわけですが。
そういう訳で、本当は明日から不幸人生どころか、幸運人生の始まりのはずだったんですよ。
――まぁ死ななければ、だったわけですが」
「マジで?」
「マジですー。でも死んじゃったんですよねぇ……」
 いかにも残念とばかりにため息をつくミチオ。千幸の被害妄想かもしれないが、その眼差しは不憫な者をみるような、そんな同情を含んでいるように見えた。
 死ぬ直前に言っていた「幸せになる」という言葉は現実になるはずだったのだ。
 千幸の最大の不幸が『死』であり、それが手違いで訪れたのが、彼女の最後の『不幸』であることは否定の余地もなかった。
「てかわたし、可哀想すぎじゃん!」
「ですよねー。まぁイノシシのせいとはいえこちらの不手際もあるわけですし、謝罪も含めて頑張った貴女に神様からご褒美がでることになったんで、あまりへこまないで下さい」
「ご褒美? 何? 何してくれるの?」
 ご褒美の言葉に俄然元気になった現金な千幸は、無意識にミチオの首を両手で絞めながらぶんぶんと揺すった。
「うっ……死にますぅ」
「あ、ごめん」
(天使って死ぬのか?)
 疑問を持ちつつも千幸は慌てて手を離し、ミチオの次の言葉を待った。
「ふぅ……死ぬかと思いましたよ、まったく。――えーと、そうそうご褒美の話でしたね。
 まず今回は突発的な事故なので転生の輪に入って次の転生を待つのではなく、すぐに新たな人生をやり直していただくことに決定しました。ゲームでいうところの『リセット』って奴ですね。
 しかもその際、神様のご厚意でかなり自由な選択肢が千幸さんに与えられます」
「自由な選択?」
「はい。生まれや容姿、特殊技能なんかですね」
「マジで?」
 思わず目を輝かせる千幸に、ミチオはにこやかに笑いながらうなずいた。
「マジですよー。何かご希望はありますか? だめなら言いますから、とりあえず何でも言ってみて下さい」
(何でもかぁ……)
 俯いて考え込んだ千幸は、しばらくしてやっと顔をあげた。
「……んーと、両親が揃ってて、もちろんわたしが成人するくらい……ううんっ、もっと長生きしてくれる両親ね。あとは兄弟とかも欲しいなぁ」
「家族? えーと、それだけですか? 絶世の美女にしてほしいとか、世界一のお金持ちになりたいとかはないんですか?」
「は? そういうの興味ないし。てかこんな普通の顔でもセクハラとか痴漢とか遭遇するんだよ?
絶世の美女とかだと色々大変そうじゃん。それにお金はあるに越したことはないけど、それもやっぱりありすぎたら困りそう。何事もほどほどがいいってもんよ。あっ、なら貧乏回避は頼んでおいた方がいいのかな? ま、別にいいか」